ブラックハート(アルパカ探偵局の事件簿より)

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               1  深夜。  秋霖に打たれた道路は、街灯の青白い光を鈍く反射している。  細いガラス繊維のような雨は、ときおり強く吹く北風のあおられて、不規則な乱舞を繰り返した。  漆黒の道路のはるか向こうに、二つのピンポン玉のようなライトが光った。  それは、ぐんぐん接近してきて、黄色い大きなボール状になった。  軽ワゴン車だった。  車は速度をゆっくりと落としながら、街灯の下で止まった。  運転席のドアが開き、中から野球帽をかぶった男がおりた。  足の具合が悪いのか、杖で体を支えながら荷台のスライドドアを勢いよくあけた。車内からペット用のゲージを持ち出すと、道路の上に置いた。ゲージの蓋をあけると、猫の頭がのぞき、のそりと外へ体を出した。前足を伸ばして、のびをした。窮屈な檻から解放されて安堵しているようにもみえた。   「おい。バカ猫!もう二度と戻って来るな。達者でな」  老人は杖で路面を叩きながら、小声で怒鳴った。  白と黒のぶちの猫は、きょとんした目で老人を見つめかえした。  にゃ、と短く啼いた。  哀れっぽい啼き声が、癪にさわったのかもしれない。  老人の声が大きくなった。 「バカ猫め!さっさといってしまえ!ほら、ぶつぞ!」  老人は杖を高く振り上げると、勢いよく振り下ろした。杖は宙を切り、猫の足元の路面を直撃した。  猫は身をひるがえして逃げた。老人から少し離れた場所で止まり、再び様子をうかがった。  老人は杖を投げた。  杖は水たまりに落ちた。泥水のしぶきが猫にかかった。 「新しい飼い主を見つけろ。それとも保健所に行くか?」  老人は声を震わせながらわめいた。 「早く、行け!バカ猫!」  にゃ。  猫はまた短く啼くと、暗闇へ駆け去った。             2  プラタナスの葉が黄色く染まった。  木の下には白いベンチがあって、昼時になると高校生たちが弁当を持参して、そこに集まってくる。  小春日和には持ってこいのランチタイムだ。  アルパカ探偵局の窓からは、彼らのひとときが一望できる。探偵局の窓からだけでなく、全ての教室の窓からプラタナスの木を望むことができる。校舎がコの字型をしているからだった。 「みんなのお目当てはあのニャンコね」  アルパカ探偵局の経理を担当するアヤメが指をさした。  
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