14人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
1
深夜。
秋霖に打たれた道路は、街灯の青白い光を鈍く反射している。
細いガラス繊維のような雨は、ときおり強く吹く北風のあおられて、不規則な乱舞を繰り返した。
漆黒の道路のはるか向こうに、二つのピンポン玉のようなライトが光った。
それは、ぐんぐん接近してきて、黄色い大きなボール状になった。
軽ワゴン車だった。
車は速度をゆっくりと落としながら、街灯の下で止まった。
運転席のドアが開き、中から野球帽をかぶった男がおりた。
足の具合が悪いのか、杖で体を支えながら荷台のスライドドアを勢いよくあけた。車内からペット用のゲージを持ち出すと、道路の上に置いた。ゲージの蓋をあけると、猫の頭がのぞき、のそりと外へ体を出した。前足を伸ばして、のびをした。窮屈な檻から解放されて安堵しているようにもみえた。
「おい。バカ猫!もう二度と戻って来るな。達者でな」
老人は杖で路面を叩きながら、小声で怒鳴った。
白と黒のぶちの猫は、きょとんした目で老人を見つめかえした。
にゃ、と短く啼いた。
哀れっぽい啼き声が、癪にさわったのかもしれない。
老人の声が大きくなった。
「バカ猫め!さっさといってしまえ!ほら、ぶつぞ!」
老人は杖を高く振り上げると、勢いよく振り下ろした。杖は宙を切り、猫の足元の路面を直撃した。
猫は身をひるがえして逃げた。老人から少し離れた場所で止まり、再び様子をうかがった。
老人は杖を投げた。
杖は水たまりに落ちた。泥水のしぶきが猫にかかった。
「新しい飼い主を見つけろ。それとも保健所に行くか?」
老人は声を震わせながらわめいた。
「早く、行け!バカ猫!」
にゃ。
猫はまた短く啼くと、暗闇へ駆け去った。
2
プラタナスの葉が黄色く染まった。
木の下には白いベンチがあって、昼時になると高校生たちが弁当を持参して、そこに集まってくる。
小春日和には持ってこいのランチタイムだ。
アルパカ探偵局の窓からは、彼らのひとときが一望できる。探偵局の窓からだけでなく、全ての教室の窓からプラタナスの木を望むことができる。校舎がコの字型をしているからだった。
「みんなのお目当てはあのニャンコね」
アルパカ探偵局の経理を担当するアヤメが指をさした。
最初のコメントを投稿しよう!