第5話

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 「ならよ。俺とお前はろくでもない人間同士。お前は俺の心が理解できるはずだ。俺が煮詰まった時には、話を聞いてくれ」  「ええ。もちろん、喜んで」  シンキチの目に、熱いものがこみ上げはじめていた。  「俺の同志になるなら、今日からお前は生まれ変わるんだ。新しい名前を付けてやる」  「新しい、名前?」  シンキチは首をかしげた。   「ベンケイと名乗れ」  「ベンケイ?」  「俺が信仰してやまない女性の姿の神様、それがすなわち弁財天、弁天様だ。弁天様は知恵の神様だ。お前は女だし知恵もある。だから弁天様から一字を頂戴する。慶は慶び。お前のこれまでの人生は、察するところ苦しいこと、辛いことばかりだったろ。だからこれからは慶びに溢れるよう、慶の字をつける」  「ベンケイ…ベンケイ…弁慶」  繰り返し口の中で繰り返すシンキチの目から、大粒の涙が流れはじめていた。  「よき名を、ありがとうございます。今日から私は生まれ変わります。あなた様という、私を信じてくれる方が現れたのですから。一生涯をかけ、全身全霊であなた様にお仕えいたします」  「おい。俺を置いていかないでくれよ」  カイソンが、手を取る二人の間に割って入った。  「ウシワカ。俺もお前の家来…できれば同志にしてくれ」  「えっ。カイソンは友達だろ。家来なんて」  カイソンは首を振った。  「俺、今日までお前のこと、正直なめてた。確かに血筋はいいけど、所詮は負けた武将の子じゃん、て。でもお前はすげえ強いし、知恵も決断力もある。しかもさっきなんか、俺が無謀な突撃をしたのを怒りもせず、かばってくれだだろ。すげえ奴だって俺、心服した」  「かばうのは当然だろ。カイソンは唯一の友達だ」  「いや。友達だってことに甘えちゃいけねえんだ。俺はウシワカの家来になって、自分を極限まで磨くことにした。強くなって、いつかお前がやられそうになったとき、お前をかばってやるんだ」  ウシワカの目にも、涙がこみ上げてきていた。  「よし。俺たち三人、これから一生同志だ。一緒に平家を打倒しようぜ」  「ええ」  「おう」  東の空に昇った太陽が、三人の頬を温かく照らしはじめている。  その時。  三人の頭上に火の付いた矢が通り過ぎた。  矢はネエさんとベンケイの暮らすあばら家に突き刺さる。
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