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「うん。そうなんだ。 だから今夜は、帰宅が遅くなっても妻は家にいないんだよ」 そう。 妻の恵美子は、毎日、家事をきっちりこなす代わりに… 私に聞いて欲しいと言ってきた『ワガママ』が一つだけ有った。 彼女は、三ヶ月に一度の土日… 友達と定期的に温泉旅行に行きたいと言ってきたのだ。 まあ、普段の恵美子は文句一つ言わずに家の事をちゃんとやってくれているし… たまには、旅行でも行って息抜きくらいはしたくなるだろうな…と、私は彼女のその願いを聞いてあげたのだ。 その事は、会社の人間も知っている。 今日は、金曜日。 恵美子は今夜から、旅行に出発している。 「でも、奥さんがご旅行中だからと言っても、ちゃんと家に帰らなきゃダメですよぉ!」 立花君が、引き続き『お小言』を口にした。 「はいはい…。 もうちょっと残業したら私も帰宅するよ。 さて!頑張ってパソコンと、にらめっこだ!」 と、私はおどけてキーボードを叩く身振りをした。 「出たぁーっ!小林課長の『エア・パソコン』!」 立花君が面白そうに笑いながら言う。 最近… 『エア・〇〇』って言葉をよく耳にする…。 要するに、そこに何も無いのに、あたかも何かをしているかのように身振り手振りのジェスチャーをする事を… 『エア・〇〇』と言うらしい。 考えてみれば、 私もカラオケで酔っ払った時、曲に合わせて『エア・ドラム』や『エア・ギター』をする事が結構、有る。 最近、知ったのだが、実は『エア・ギター』は、ちゃんとした『市民権』を得ていて、アメリカではそれを競う大会まで有るらしい。 まあ、 何も無い所で、あたかも何かをしている様に見せる事を『エア・〇〇』と言うのなら… パントマイムだって落語だって、全て『エア・〇〇』になってしまう訳だが(笑)
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