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夜の波止場。
十二月の始め。辺りは寒さが支配し凜とした空気が張り詰めている。時折、遠くから船舶の汽笛が響き渡る。星の煌めきや月明かりの淡い光が灯る夜空。霧が出ているのだろうか、深淵なる海とほのかに明るい空の境目が曖昧でハッキリとしていない。やんわりとムーディーなジャズのリズムが霧の出た夜空へと届く。
イヤホンから漏れるチケット・コルアの名曲モーニング・スター。
倉庫の縁に座った片目をつむった少年。
彼の名は葦田天(あしだ てん)。今年で16歳になる。しかしながら高校などには行っておらず、既に働き始めた社会人。いや、社会人と表現してもいいものなのか、彼は裏の運び屋であり、真っ当な人間ではなかった。
彼をつぶさに観察してみよう。
真っ黒な瞳。洒落たブラックという言葉は似合わない。吸い込まれそうな黒と硬派に表現するのが一番的確。男にしては少々長い風に流れる髪も艶のある黒だ。鼻筋は通っている。程よく品のいい口とのバランスを考えれば一目でイケメンと分かる。
彼は黒が好きなのか、どこか喪服を思わせる真っ黒なスーツの上下。歳には似合わずネクタイをしている。黒に映える赤の無地。とどめは靴。これも黒。遠くから見ればまるで影が動いているようにも見える。この全身黒尽くめのスタイルを天自身は愛着を込めてモード・カラスと呼んでいる。
彼のここ一番の勝負スタイル。
ただし、唯一、格好良さとかけ離れた帽子を被っていて濃い青色。前面にはLAPTONなる刺繍が入ったコミカルなデザインだ。
そんな日陰者でヤクザである天の父親も裏の運び屋であった。
ある能力が彼らを運びの仕事へと誘ったのだ。
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