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…――韋駄天足(いだてんそく)。
韋駄天足については追々、明かされていくので今は名だけに留めておこう。
ともかく天は基本的にどんな荷物でも運ぶ。
法律に触れるものから爆発や感染の恐れがある危険物まで厭わず。しかしながら納得がいかないもの、つまり運べば格好悪い結果にしかならない荷物は運ばない。悪事の手助けはしないのだ。義理人情に厚い男だった。天の親父もそう。むしろ威風堂々とした気っぷのいい親父の背を見て育った天だからこそ情が厚いのかもしれない。
そして今日もこの静まりかえった波止場から運びの仕事が始まる。
天を照らし出す一台の車のライト。
目の前で止まる。
白いウォークスルーバン。年式は古そうだ。丸みを帯びたフェイスと対照的な角張った荷台が特徴の車。どうやらこの車の運転手が今回の依頼人のようだ。無言で立ち上がる天。
ゆっくりと車のドアが開き一人の男が出てくる。
依頼人であろう。
「始めに言っておく。俺は納得した仕事しかしないぜ。格好悪い事はしない」
先制して釘を刺す。
…――格好悪い事はしないだって?
意味が分からないと顔をあげた依頼人が驚き戸惑う。
「!」
「フッ。運び屋稼業を始めて一年少々。毎度毎度飽きもせず同じ反応だな」
おもむろにジャズの流れていたイヤホンを耳から抜く。
そして右目をつむる。
男を力強く指さしてから続ける。
「まだ子供(ガキ)じゃないかってところだろう?」
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