18人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
二年の後。明治二年皐月十一日未明、箱館、五稜郭。
賊軍だったはずの薩長はいつの間にか「明治新政府軍」という名の国軍へと化け、錦の御旗を押し立てて旧幕軍の残党が籠るこの極北の要塞へと殺到した。
最期になるであろう戦いに備え、長椅子にもたれて短い仮眠をとっていた蝦夷共和国箱館政府陸軍奉行並、新撰組副長土方歳三は、不意に何者かの気配を感じて眼を開けた。
「…総司?」
何故か、京にいた頃、壬生の屯所でいつも見かけた沖田の屈託の無い笑顔の記憶が脳裡を過り、土方は辺りを見回した。
どこから迷い込んだか、まだ夜の闇が残る部屋の隅の暗がりに、一匹の黒猫。
にゃあ
一声鳴き、そして猫は闇に溶けた。
最初のコメントを投稿しよう!