剣士と黒猫

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二年の(のち)。明治二年皐月十一日未明、箱館(はこだて)五稜郭(ごりょうかく)賊軍(ぞくぐん)だったはずの薩長はいつの間にか「明治新政府軍」という名の国軍へと化け、錦の御旗を押し立てて旧幕軍の残党が(こも)るこの極北の要塞へと殺到した。 最期になるであろう戦いに備え、長椅子にもたれて短い仮眠をとっていた蝦夷共和国箱館政府陸軍奉行並(えぞきょうわこくはこだてせいふりくぐんぶぎょうなみ)、新撰組副長土方歳三は、不意に何者かの気配を感じて眼を開けた。 「…総司?」 何故か、京にいた頃、壬生(みぶ)屯所(とんしょ)でいつも見かけた沖田の屈託(くったく)の無い笑顔の記憶が脳裡(のうり)(よぎ)り、土方は辺りを見回した。 どこから迷い込んだか、まだ夜の闇が残る部屋の隅の暗がりに、一匹の黒猫。 にゃあ 一声鳴き、そして猫は闇に溶けた。
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