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にゃおん、と鳴き声がした。
「失せ物屋」の店先を箒で掃いていた太郎が手を止めて辺りを見回すと、丁度真後ろに真っ黒な猫がちょこんと座って、こちらを見上げているではないか。
「いつのまに……。猫さん、どこから来たんですか? おかあさんは、どこですか?」
返事など返ってこないと分かっていても、太郎は猫の前にしゃがみ込み話しかける。
漆黒の毛皮は艶やかな天鵞絨のようにしなやかだ。
思わず手を差し出すと、黒猫は太郎の指先をすんすんと嗅いで、ペロリと舐めた。
ざらりとした猫の舌の感触に一瞬ゾワリと太郎の背中が粟立ったが、そんな事は知る由もない猫は太郎にその小さな体を擦り寄せた。
ゴロゴロと喉を鳴らす音が腕越しに伝わる。
甘えているのだと分かった。そっと柔らかな腹に腕を差し入れて持ち上げると、なんの抵抗もなく黒猫は太郎の腕におさまった。
ぐにゃりと柔軟な体にどきどきしつつ、自分より小さな体を潰さないように優しく抱きしめた。
首には栞のような、赤い紐が結ばれている。
どこかで飼われていた猫のようだ。
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