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薄暗い路地裏。ゴミ置き場と化したそこは廃ビルばかりが建ち並ぶ、廃人とネズミ、無数の虫のみが行き交う場所。そう、目を覚ますと、そこは僕の棲み処だ。 ツギハギだらけの肢体を、ぎこちなく動かす。まだギリギリで動く身体も、腕一つ上げる力はない。 縫い目がほつれてきてる…もう、この腕も重みに耐えられずに肘の下から落ちていくだろう。 真っ暗な世界。この身が光を浴びたのは、どれほどの期間だったのだろう。 もう、ぼくは朽ちるだけ。足元を見ると、蝉が今まさにその命を終えようとしている。 あぁ、まるで僕みたいだ。 ――… はじめに目を覚ましたとき僕の目の前にいたのは、虚ろな目をした浅黒い顔の男だった。 「できた…完成だ!ピエロ、それがお前の仕事だからな」 目が合うやいなや、その男は僕にそう言った。嬉しいのか苦しいのか分からない歪んだ笑顔で僕を抱き上げていた。 今思えば、彼が真っ当な人形技師であったなら、僕の身体はもっと美しく作られていたのだろう。 やけに白い肌はツギハギだらけ。唇はいびつな弧を描き、左右で大きさのちがう目はあっちを向いたりこっちを向いたり。 不気味を形にしたようなその体は、地下のサーカスにそれはそれは高値で売られた。 「お前は、ただ馬鹿にされて笑われていればいい」 そう言ったサーカスの人たちは、言葉など不要な僕のことを嘲るかのように日夜仕事を押し付けた。 空中ブランコに、支えのない梯子の上でのバランス芸。ジャグリングは剣でしか行われず、演技を行うすべての人間がマスクを被っていた。 とくに盛り上がるのは、大きなホワイトタイガーが逃げ惑う罪人を檻の中で凄惨に食い散らかすラスト。白い毛並みに絡みつく鮮血のコントラストは、観客を大いに賑わせた。 僕はそんな合間合間に出ては、時間を稼ぐようにおどけて回っていればいい。 練習など必要がないわけだから、すべての雑用までが僕の仕事だ。 人間は、日々寸分違わぬ精密さで演技をしなければ死がすぐそこにあるのだから当然だ。
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