綱渡りの少女

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 目を開けると、そこにはぽっかりと空いた穴と、そこに張られた一本の綱があった。 (またか……)  もちろんそれは寝ぼけている私の『幻覚』で、実際にはフローリングの床がちゃんとある。  けれど私の目には、部屋の隅から隅まで穴が空いているように、あるいは床が抜けたように映っていた。  見下ろすとどこまでも暗い、奈落の底に続いていそうな穴が。  私のベッドや机はその上に浮いているーー奇妙な光景だけど、私にはお馴染みの光景だった。  ベッドから下りて、注連縄くらいの太さの綱の上に立つ。  足に伝わる感触はフローリングのそれだった。別に、足元がたわんで揺れたりしない。  私は毎日、その綱を渡って家の中や外を移動していた。  サーカスの、綱渡りのように。
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