弟がくれた世界

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 あたしは、“Side. 父さん”と“Side. 母さん”の2つの世界を行ったり来たりしながら暮らしてる。  父さんの家と母さんの家を行き来、という意味ではなく、この2つはまったく別の並行世界。  どっちの世界でもすでに離婚が成立してて、父さんと母さんはそれぞれ新しい暮らしを始めてる。  元々、世界がひとつだったときは離婚調停中で、あたしの親権も争ってた。  でもあたしは、どっちかだけについてくなんて絶対できない。  だからものすごく強く、どっちにもついてきたいって願ったんだ。  何に願ったのかはよくわかんない。  そんな風に思った次の日から、あたしが父さんと一緒に暮らす世界=“Side. 父さん”と、母さんと一緒に暮らす世界=“Side. 母さん”の2つが別々に動き出してた。  あたしが眠りから覚めるタイミングで、世界の「シフト」が起こるんだけど、あたしの意思で起こすのは無理っぽい。  ちなみに“Side. 父さん”と“Side. 母さん”の交代のことを、あたしは「シフト」って呼んでる。  シフトは1日単位とかじゃなく、昼寝で起こることもあったりしていまいち法則はわかってない。  てなわけで、今日は母さんが暮らすアパートの寝室で目が覚めた。  寝る前まではたしかに父さんの家――元々あたしたちが暮らしてたマンションなんだけど――にいたから、シフトが起こったのは間違いなさそう。 「一葉(いちは)、起きなくて大丈夫~?」  母さんの声が聞こえる。  家の中もさることながら、お隣さんとの壁も薄い。今の母さんの声はたぶん、隣に聞こえてるんじゃないかな。  もそもそと布団から抜け出しドアを開ける。おはよとあくびを一緒に出すと母さんが少し笑った。 「おはよう。今日はあれでしょ、なんだっけ? なんとか祭の準備で学校行くって言ってなかった?」 「畑中祭(はたちゅうさい)ね。今日は日曜だし、時間は決まってないから大丈夫」 「そうなの。でもほら、朝ごはん。たまにはゆっくり食べましょ」  母さんが視線を移した小さなテーブルには、サンドイッチと湯気の立つ野菜スープが乗ってる。 「中学だと、文化祭に親が行ったりはしないものよね? 去年も行ってないものね」
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