278人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
泣きながら家に帰ると、父さんが驚いた顔で出迎えてくれた。
「どうしたんだい、秋鹿」
秋鹿は何も答えられず、頸を横に振って父親に抱きついた。
「そうか、哀しいことがあったんだね、秋鹿」
父親は泣きじゃくる秋鹿の頭を、温かな手で撫でた。
「今日の夕飯は、ナポリタンにしよう。ウインナーをいっぱい入れて。な、秋鹿」
母親は帰宅が遅くなるからと、父親と秋鹿だけで夕飯を食べた。父親は秋鹿に、泣いていた理由を無理に聞きだそうとはしなかった。二人は今度の休みに観る映画の相談をした。ナポリタンのウィンナーはいつもよりたくさんで、蛸や蟹の形をしていた。
食後に、皿洗いを手伝いながら、秋鹿は父親に頼んだ。
「泣いてたの、母さんには内緒にして」
父親は微笑みながら頷いて、
「判った。内緒にするよ」
秋鹿は安心した。父さんが内緒にすると約束してくれたら、それはもう絶対に内緒なのだ。
父親はテーブルに置かれたチョコレートに気が附いて、
「秋鹿、これ、秋鹿のおやつかい、」
猫にあげられずに持ち帰ったものだった。
「うん」
「食べないのかい、」
「……うん」
父親は不思議そうにチョコレートを取り上げて、
「そうか、これは秋鹿にはまだ苦いかも識れないなあ」
最初のコメントを投稿しよう!