烈姫ーrekiー

3/17
75人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
 夜に黒猫と出会うと不吉だとか言わなかっただろうか。 「いや、前を横切ったら、だったかな」  ブツブツと呟いてチーカマを口に放り込んだ。カップ酒を一口舐め、またため息をつく。 「ああ……つらい……」  年末年始は仕事漬けだった。仕事なのだから仕方がない。働くことの出来る職場があるだけ有難いと思っている。年末年始だろうが、ゴールデンウィークだろうが、働けと言われれば働こう。盆休みがなくても文句はない。  鴨川は去年の秋に再就職した。以前勤めていた広告代理店は、不況のあおりで大規模なリストラを断行した。リストラ組の中には鴨川も入っていた。三十歳を過ぎ困難な求職活動を続け、ようやく正社員として採用されたのが今の会社だ。鴨川はまだペーペーの中途雇用社員なのだ。    仕事自体は難しいものではない。給料もまあまあだ。男ひとり生きていくくらいならなんとかなる。だから仕事がつらくてつらいと呟いたのではない。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!