Sign of Love

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「それをしている時間がないんです。バックアップとかないんですか?」 「いや……。実はあのクラウドに関しては、開発元に保守ごと任せてしまっていて。どのみちデータベースにアクセスするにはあちらの権限も必要で、担当者に問い合わせてみないとちょっと答えられないですね」 「今から連絡を取っていただくことは可能ですか。開発ってグループ会社ですよね?」 「無茶言わないでください。グループ会社っていっても別の会社だし、時間が時間ですよ。明日の朝一でかけますね。えーと報告は……」 「麹町事務所の佐倉宛に、できるだけ早くお願いします。失礼します」  受話器を置いて顔を上げる。課長が渋い顔のまま頷いた。 「話、聞こえてたよ。今日はほんとうに上がりな、佐倉さん。電車なくなっても困るから」 「でも、わたしだけ帰るわけには」 「今日はもうどっちみちやれることないだろうから。とにかく、もう少ししたらどうせみんな帰るから。ね」 「……はい」  わたしがここにいると、みんなも気を遣うんだろう。開発元の営業時間だけ調べて、今日はもう上がろう。  自社サイトからシステム開発を専門としているグループ会社のウェブページを開く。営業開始は朝九時。これでも遅すぎる。
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