少しだけ

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8時半過ぎ、愛美と友人がレストランを出ると、外は雨が降りだしていた。 「結構降ってるね。気付かなかった。」 友人はバッグから折り畳み傘を取り出して広げる。 「愛美、傘持ってないなら駅まで入れてあげようか?」 「うーん…電車降りてからも歩くからな…。あ…。」 ほんの少し先にある営業所の窓にはまだ明かりが見えた。 「私、支部に折り畳み傘置いてあるんだ。まだ誰かいるみたいだし、取りに行くよ。」 「一緒に行こうか?」 「ううん、走ってくから大丈夫。帰る方向と逆でしょ?」 友人と別れ、雨の中を走って営業所にたどり着くと、支部の窓に灯る明かりを見上げた。 (良かった…まだ誰かいるんだ。) 愛美は少しホッとして営業所の中に入った。 そっとドアを開けて支部に足を踏み入れると、支部長席に座っていた緒川支部長が顔を上げた。 「菅谷…。」 「あ…支部長…。」 「こんな時間にどうした?」 「近くで友人と食事して店を出たら雨が降っていたので、傘を取りに…。」 「…そうか。」 緒川支部長はまた机の上の書類に視線を落とす。 (それだけ…?) 愛美はロッカーから折り畳み傘を取り出して、支部を出ようとして足を止めた。 緒川支部長は相変わらずこちらを気にも留めない様子で書類に何か書き込んでいる。 「支部長…あの…。」 愛美がそう言い掛けた時、緒川支部長が顔を上げるより早く支部のドアが開いた。 「あれ?菅谷さん、こんな時間にどうしたんですか?」 高瀬FPが驚いたように愛美に声を掛けた。 「あ…傘を取りに…。」 「そうなんですね。僕もこれから帰るところなんですけど、傘持ってないんですよ。駅まで入れてもらえます?」
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