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営業1課の中でも随一の有望株、同世代の女子社員の中でも「カッコいい」と騒がれている芹沢敏生(セリザワトシキ)のことを、結乃(ユノ)は何年も前から知っていた。
ただ、知っているだけ。知り合いではない。
彼は多分、結乃のことを知らない。知らないどころか、結乃の存在にさえ気づいていない。
というのも、敏生は結乃の高校の同窓生で、三年生のときは隣のクラス同士だった。
高校生の時から、独特な雰囲気を醸し出している敏生は際立つ存在で、でも、当時から〝女の子〟には興味がなかったらしく、誰も寄せ付けないオーラが漂っていた。
かたや、結乃の方は見た目も中身も十人並みで、集団の中に埋没してしまうタイプ。高校3年間の中で、結乃は彼の視界の中に入ったことがあるのだろうか……。
……でも、こんな結乃でも、恋はする。
本当に淡く、ほのかなほのかな〝想い〟……。
高校時代、結乃はそんな想いを敏生に抱いていたけれども、彼に近づくことさえできず、そのまま卒業を迎えてしまった。
成績優秀だった敏生は有名大学に進学したが、結乃には同じ大学に行ける学力などあるはずもなく、その〝想い〟も大学時代の4年の間に、遠い思い出になろうとしていた。
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