ありえない失敗

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「……芹沢くん……?」 それは、結乃が初めて、声に出して敏生を呼んだ瞬間だった。それが、こんな気持ちで呼ぶことになるなんて…。 結乃の声に、敏生はピクリと肩を動かして気づいたようだったが、振り返ることはしなかった。 「私……、芹沢くんの大事なお客様にとんでもない失敗して、芹沢くんの足引っ張っちゃって……、ごめんなさい」 敏生は見てくれなかったけれども、結乃は体を折り曲げて深く頭を下げた。お茶出しなんて何度もしている仕事なのに、こんな大事な時に失敗してしまう自分が情けなくて、涙が込み上げてくる。 「……君は何の関係もない。悪いけど、一人にしてくれるかな……」 沈んだ声で発せられた敏生の言葉が、結乃の胸に突き刺さった。 敏生の力になるどころか、側にいることも許してもらえず、結乃は背中を向けて歩き始める。唇を噛み締めても、どうしても泣くのを我慢できず、とめどない涙が結乃の両頬を伝って落ちた。
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