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神崎さんに呼びだされて、お酒を飲んで眠ってしまったゆう子さんを迎えに行った夜、何とか気持ちを伝えたのにもかかわらず、返事はもらえなかった。
朝、龍太がおばさんからの差し入れを仕事の前に持ってきたところにゆう子さんが出て行くが鉢合わせてしまった。
「付き合いだしたのか?」
龍太は目を丸くして俺を問い詰めた。
「いや、付き合ってない」
差し入れの袋を受け取りながら言う。
「付き合うなら、覚悟がいるしな。俺は、お前がそっちの道を選ぶんだったら応援するから」
龍太はそれだけ言うと仕事に向かった。
深いため息をつきながら、ベッドにフラフラ戻る。
ゆう子さんの体温がまだ、シーツに残っていて切なくなる。
俺の気持ちに返事をしたくない。
それが、ゆう子さんの答えかもしれない。
心が折れそうになりながらも、ゆう子さんを求めている俺。
誰にも渡したくないし、そばにいてほしい。
でも、伝わらない。
春の朝のすがすがしい空気だというのに、ただただ呆然とするしかなかった。
そして、ゆう子さんは、バイトの後に一緒に帰ることも辞めてしまった。
送ろうとすると、用事があるから、と言って、別の道へ帰っていく。
そう言われると、もう、なすすべがない。
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