第1話 蜘蛛の糸

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 【一】  リビングのドアを開けた。ドサッと手から袋が落ちた。  立ち尽くすと、涙が勝手に流れた。  目の前は赤い海だった。  床が赤く染まり、雪が浮かんでいた。  俺は駆け寄った。  そして、抱き寄せた。 「起きろよ、起きてくれよ! なんで、なんで……」  繰り返し問いかけても雪からの返事はない。  胸を刺され、そこからダラダラ流れる血は生温かい。  殺された恋人を前に、俺はスーツも手も心も何もかも赤く染まった。  テーブルに用意されたケーキは白いままだ。  最悪な二十三歳のクリスマス。  ファン、ファン、ファン  外からサイレンが聞こえてきた。 「嘘だろう……」  俺は立ち上がって、カーテンを開けた。  マンションの下にはパトカーが停まっていた。 「なんで、パトカーが……」  俺は警察を呼んでいない。  こういう時はどうすればいいんだ?  もう一度、雪を見た。殺されている。 「そうだ、警察だ。警察に言わないと」  理性が答えをくれた。幸いにもパトカーがあった。  俺は玄関に走った。  だが、血の波が俺の靴下を滑らせる。  ダン!  バナナでも踏んだように滑り、後頭部を打ちつけた。 「いったぁ……」  意識が淀む。視界の端に何かが見えた。  人だ! 人の顔だ!   犯人だ、そう確信した時、ビリリと電流が走った。  そのまま意識を失った。
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