第1章 電子世界で君と出会う

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昼間でもカーテンを引かれて真っ暗な部屋、脱いだ服や本が散らばったベッドと床。 お菓子が詰まった棚の引き出しに、飲み物専用の小さな冷蔵庫。 その冷蔵庫のモーター音に混じって聞こえる、カチャカチャとパソコンのキーボードを叩く音。 それが、俺の居場所。 どこにも行けない。行ける場所なんて無い。 この家から一歩も外には出られない。 いや、行こうと思えばいくらでも外に出られるはずだ。 それが解ってるのに出られないのは、俺にとっては外は空気の無い異空間と同じだから。 外は苦しい。息が出来ない。 だから俺はここに居る。 きっと、死ぬまでここから出られないんだ。 そんな俺が唯一外との繋がりを持てるのは、この作り込まれたファンタジーな世界だけ。 一年程前に出来たMMORPG『ホロスコープ ファンタジア』 星座をモチーフにしたパソコン用のネットゲームだ。 始めた当初はほぼソロプレイだった。 人と話すのも苦手だと思っていたから。 でも顔も見えない相手とチャットで話すのは、実際に会話をするより簡単だった。 思った事をキーボードで打ち込むだけでいい。 それからクランに誘われ、一緒に遊ぶ仲間も出来た。 現実では人として何かが欠落している、弱くてダメな自分がファイターやナイトになってどんどん強くなれる。 仲間を助けて役に立てる。 それだけで何だか自分が認められたような気がして、この作られたファンタジー世界も俺の居場所になったんだ。 .
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