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「犯人は、わからないままなんですよね?」
「まあ、もう本人が名乗り出ない限りわからないでしょ」
「部活の人たちには、お話ししたんですか? その、先輩の…」
「施設の話? ううん、なんか、今じゃないなと思って」
そうなのか…。
ポン、と先輩の足の上でシューズが弾む。
「ま、実際、夜間部の誰かがやった可能性もあるしね。厄介な人間が多いのも確かだし」
「ですけど」
「でも、それは単に、二つの集団の性質の差であってさ。"普通部"と"夜間部"の違いではないと俺は思うわけ。そういう話ならした、バスケ部の奴らと」
「したんじゃないですか!」
「施設の話はしてないもん」
「和解のためになにか動いたんですかって聞いたつもりだったんですよ、わかってるくせに、わざと意味を小さく取らないでくださいよ、もうっ」
ぽかぽかと殴る私を手でガードしながら、先輩が笑う。そのときスカートのポケットで、携帯が震えた。
「はいはい、えっ、ほんと!」
母からで、弟がサッカークラブでの昇級試験に合格したという連絡だった。
「わかった、ステーキ肉4枚ね、高いほうのスーパーね!」
私はいい知らせに興奮し、電話を切って先輩のほうを向く。
「すみません、弟がテストに合格したんで、早く帰ってやらないと。うち共働きなんで、競争率の高い買い物は私の役目なんですよ…なにかおかしいですか?」
「ううん」
明らかに笑いをこらえている顔で、先輩が首を振る。
「家でも犬なのかよー、みたいな?」
「そんなこと思ったわけじゃないよ」
「じゃあなんですかあー」
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