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ふらふらと彼女のほうに惹き寄せられていく私を、またしても妻が阻止した。なぜだ、なぜ自分の行きたいほうへ行ってはいけないのだ。
「あなた、聞いてます? もしご自分ではどうすることもできないような辛いことを抱えているのなら、出国前に一度お医者さまに──」
「何もない」
「えっ、でも……」
「私はただ歩きたい」
「はい?」
私は視線をこれから進む方へと向けた。ああ、あのイチョウのにおいも嗅いでみたい。その先からは犬の鳴き声がする。あの声質からすると小型犬、それもまだ子どものようだ。
はやる気持ちを抑えられず、私は走ろうとした。その私の腕を妻ががっちりと掴んで、私は自由に走ることも許してもらえないようであった。
だが、私は知っている。
彼女は、私をとても大切に思い、心から愛してくれているということを。
なぜだかはわからないが。
(U・ェ・U)
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