いぬらー

11/14
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
我ながらとんでもない言い訳だが、他に何も思い付かなかった。暫し妻は呆れた様子で私を見ていたが、やがて何かを吹っ切るかのように、私の腕を取って歩き出した。 公園に差し掛かった。いつもハーレイとひと休みする公園である。午後の優しい陽射しのもと、子どもたちが楽しそうに遊んでいる姿があった。笑いながら走り回っている者、ブランコに揺られている者、キャッチボールをしている者── ボールが大きく逸れて、私たちのほうに向かって飛んできた。緩やかな放物線を描いて芝生に落ちたボールは、そのままころころと転がってくる。 「ねえ、あなた」 「うん?」 腕を引っ張る妻に一瞬気を取られたが、私の目はボールに釘付けだった。 「授賞式が終わったら、そのまま北欧を旅行しません? このところどこにも出掛けてませんでしたし」 「ああ、そうだな……」 転がってきたボールは、走ってきた少年の手によって掬い上げられた。 「北欧、それかどこだっていいわ、あなたと一緒なら。ねえ、あなたはどこか行きたい場所はあって?」 「うーん、そうだなあ、イタリア、フランス、スペイン、ポルトガル、ボール……」 「え、ボール?」 少年が、遠くに佇む少年に向かって、思いきりボールを投げた。と同時に、私はボールめがけて走り出した。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!