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彼女を引きずりながらようやく家に辿り着いた頃には、もう太陽はオレンジ色になって西に傾いていた。随分と長いこと散歩してしまったようだ。
さすがに疲れてソファの上でまるくなると、部屋の入り口に寝そべってじっとこちらを見ているハーレイに気付いた。
ただいま、と彼に声をかけるべきか、私は躊躇した。ハーレイは怒っているような表情をしていたのだ。
その時、妻がグラスに入った水を持ってきてくれた。よかった、喉がカラカラだったのだ。
ごくごくと飲み干す私を置いて、妻は無言のまま部屋を出ていった。
空になったグラスをテーブルに置いた時、再びハーレイと目が合った。
「や……やあ」
果たして私はうまく笑顔が作れただろうか。ハーレイは少しもその怒ったような表情を崩さず、ただ鼻から息を短く吐き出した。
「解るかい?」
「……え?」
ハーレイの問いに、私は首をかしげた。
「人間ってのは、損得なしに俺たち犬を可愛がる。同じ人間同士、憎みあったりいがみあったり、殺しあったりもする愚かな種族だけどな。限りある人生を無駄にしたり、大事なモン見失ったり。でもな、そんな愚かなところが、俺は愛しくもあるんだよ。だから俺は、人間を見放すことができねぇんだ。それに──」
ハーレイは一度言葉を切ると、交差させていた前趾をゆっくりと組み換えた。
「それに、群れ──つまり、家族ってもんは、もう、好きだの嫌いだの、そういった感情を超越してるだろ? 時にイラッとしたり、ぶつかったりするけどな。けど、自分にとっては命より大事な仲間なんだ。血が繋がっていようが、いまいが、な。俺たちは、家族なんだよ」
ひどく慈愛に満ちた目で私を見つめながら、ハーレイはのそりと立ち上がると、ゆっくりとした足取りで私に近付き、それから優しく寄り添ってきた。
[おわり]
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