二人の想い

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「へえ。どういう風の吹き回しだよ」 「さあね」 母はそっけない言葉を返しながら、口元を緩ませていた。 「ねえ、学も夕飯まだなんでしょ?」 「俺はいいよ。凛子が作るんだろ。どうせ母さんが手伝ったって、何時に出来上がるかわかったもんじゃねえし、親父が帰る頃にはできるだろ。娘の初めての手料理に感動してやってくれよ」 「やっぱり私も手伝うことになるのかしら」 笑顔で困ったフリをする母を見て、つい先程までの尖った気持ちがなくなっていたことに気がついた。 そのことが俺の口を軽くする。 「兄貴は仕事?」 「そうね。今は仕事に打ち込んでる。こんなことになったけど……会社ではいい仕事仲間がいるみたいで、顔色もいいわ」 母は寂しさを滲ませながら、安堵の表情だった。 「なら、いいけど。じゃあ、行くわ。明日、現地で」 俺は玄関のドアを開けた。 外へ出る前、玄関にカコのスニーカーがないことに気づき、凛子がスーパーに履いていったのだと思うと笑みがこぼれた。
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