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オレはあえて、誘いに乗った。警備員たちが止めようと手を出してきたが、大丈夫だと振り払う。女の真っ赤な唇に、耳を寄せる。
「ディス・プレイス・ウィル・ビー・・・」
ブロンド女優の囁きを、アプリが追っかけて日本語に訳してくれる。
「この場所は・・・」
女は、甘いと息とともに言葉を吐きだした。
「ザ・グラウンド・ゼロ」
ブロンド女優がけたたましく笑い出した。
髪を振り乱して、腹を抱えながらひきつった笑顔を見せた。外れるはずのない手錠をガチャガチャと引っ張って、身体をくねらせた。
警備員たちが、暴れる彼女を押さえつける。駄目だ、気でもふれちまったのか。
もうこれ以上聞いても無駄だと悟って、オレは女子更衣室を出た。
更衣室の前の壁に寄りかかって、葵さんが待っていた。オレの顔を見て、「どうだった?」と尋ねてくる。
答えの代わりに、ただ首を横に振ってみせた。
通路に置かれていたサマンサタバサのショップ袋を手に取ると、中身が入っていないことに気付く。
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