2017 立春

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真夜中の午前零時。わたしたちを乗せた雷太は狭間探偵事務所に到着した。挨拶も省略して聡ちゃんが所長に詰め寄った。 「どういうことだ?あんな危うい相手を予想して、かのんをひとりで行かせるつもりだったのか?」 変幻を解いた金髪の透子さんと銀髪の所長を久しぶりに見た気がする。真顔の聡ちゃんに、所長は銀色の瞳で射るように見返した。 「聡太郎。麒麟とは想像以上に超越した存在なんだよ。麒麟に敵うものはいない。ゲームならゴッドレジェンド?ラスボスはギルド全員で攻撃すればいい? ……違うよ。同じフィールドに立つことすら無理なんだよ。麒麟は四象を統べる者。僕たちとは次元が異なるんだよ。永く生きる吸血族の者でさえ、頭を垂れる唯一無二の者が麒麟なんだ。」 唇を噛むようにキュッと結んだ聡ちゃんは、何も言い返せない。 「この春、地球上最強の吸血族だと噂のあの御方が、透子を伴侶にしようとした時、僕たちの絆をお認め下さり、祖国へ帰国したのを知っているだろう? 僕も未だに戦ってるよ。透子は僕より力が勝る女神のような人だからね。聡太郎もわかってるんじゃないのか?」 下を向いた聡ちゃんの前に、ハーブティーとレモンケーキを置いたのは透子さん。 「さぁ、賀茂くんもかのんちゃんも座って。」 透子さんには伝わってる。異世への往復は気力も体力も激しく消耗する。 聡ちゃんがハーブティを口にした途端、ソファーにもたれかかった。自身でも疲労困憊していることに気付いたみたい。 「かのんが無事でよかった。あんなチャラいおっさんにかっさらわれてたまるか。」 ギュッと握りしめた手のひらのぬくもりにドキドキした。
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