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春休み以来の実家だ。隣の母を見ると、優しい微笑みを浮かべた。
「かのん。ちゃんと食べてる?」
母らしい気遣う言葉だった。
「食べてるよ。つい作り過ぎちゃって、おじいちゃんと譲り合ってる。」
「そう?少し痩せたんじゃない?かのんは睡眠不足にはならないだろうけど。」
まぁ思春期の娘が夜22時就寝、早朝5時起床と規則正しい生活を送ってるし。
「ふふっ。お兄ちゃんのクッキー食べてるよ。」
「たくさん食べて、たくさん持っていってね。」
「うん!食後の楽しみだもん。」
正面にパティシエRYTHEMがあり、広い駐車場がある。母が慣れたハンドル捌きで停車した。
裏側に住居スペースがあり、スーツケースを抱えて先に家に入った。2階に兄とわたしの個室がある。将来は兄のお嫁さんが住むことになるかもしれない。
スーツケースを置きリュックを背に1階に行くと、ラインで待ち合わせた園ちゃんと泰明くんが、うちのソファーで寛いでいた。
「お待たせ。」
「桐ちゃん昨日ぶり。」
「鈴ちゃんは工藤くんのバイト先を手伝ってるんだって。」
「へぇ。いい雰囲気だったもんね。」
「桐ちゃんでもわかるなら、アイツら付き合うかもな?」
「それ、どういう意味?」
フルーツタルトとガトーショコラを手に、兄がツッコミを入れた。
「かのんが色恋話をすると雨が降るかも。」
「お兄ちゃん、ヒドイ。」
わたしの頭をわしわし撫でながら言う。
「泰明のイマカノが、かのんと親友なんて世の中狭いな。ほら、フルーツタルトは泰明ん家で、ガトーショコラが実夢ちゃん家な?」
「ありがとうございます。」
ふたりは笑顔で受け取った。
昨夜園ちゃんに“泰明くんの家で書道をしに行く”とラインしたら同行したいってお願いされた。泰明くんが園ちゃんを彼女だと紹介する時に、一緒にいて欲しいらしい。
泰明くんの父、義明さんは温厚な方だし心配ないと思うんだけどね。
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