前進

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「あっ……ごめっ……」  私に覆いかぶさるような形で彼が倒れ掛かってくる。突然のことで何も考えられず顔を見つめる。  お互いの顔はきっと数センチ離れているだけ。そのことを考えて、頭が真っ白になる。 「わぁぁぁぁ! ごめん! すぐ離れるから!」  そう言って慌てて起き上がる。それを見て私の私の脳が警笛を鳴らす。  ――――いいのか、このままで。  いいわけがない。わかっていた。しかし恐怖が先を行く。逃げ続けた結果が今だろう、それは私もわかっていた。  私と彼は付き合い始めて五年くらいになる。なのに未だ手をつなぐので精一杯。一般的なスキンシップなど取ったことがない。それでも彼は諦めず私と付き合い続けている。物足りなくはないのか。愛想が尽きたりしないのか。よくわからない。  そう考えながらも会うたびに彼はにこにこしていた。嬉しそうに。逆に私は笑うことすらできない。言葉にもできない。不器用以前の問題だと思っている。  それを考えと私は彼に何もしてあげられていない。だからこそ、不安だった。  周りからは冷めた恋人だと思われても仕方ない。可愛い顔つきから何度か迫られたこともあるという。それでも彼は私が好きだと言い続けていた。  そんなことを考えて、私は彼に精神的虐待をしているのではないかと思い始めた。そしてまた頭が真っ白になる。
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