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ゆっくりと下の様子を覗く。下には美化委員たちが植えたひまわりがあった。僕はここからではダメだと、場所を少し左に移す。
もう一度、下を覗いて、灰色のコンクリートのある場所だと確認する。校舎は四階建てだから、高さは十五メートルくらいだろう。いなくなることができる十分な高さだ。
僕は大きく息を吸い込む。
よしと心して、飛び降りようとしたその時だった。
屋上の扉が開くときに鳴る甲高い金属音が響いてきた。
思わない出来事に僕はしばらく立ち尽くしてしまった。こんなハプニングが起きないようにわざわざ朝早くここに来たというのに、これではまるで意味がないではないか。
僕の最期まで、水を差す奴は誰だと後ろを振り返る。
「あ! 宮下くんだー。おはようー」
彼女はいつもと変わらず、大げさなほど口角を上げ、目はきつねのように細くして微笑む。
僕は彼女に聞こえるくらいの大きなため息をした。普段、クラスの中でこんな態度を取ったら大変なことになるけど、彼女の前だったら許される。
だって、彼女は変人なのだから。変人にはまともな対応なんて必要ない。それに、彼女をいじめるという行為は、クラスの決まりごとみたいなもので、そこから逸脱すると僕みたいになってしまう。
「そんなところでなにしているのー? 日向ぼっこー?」
彼女の語尾を伸ばす癖が僕の抑えていた感情を爆発させた。
「なんだって、お前はいつもいつも僕の邪魔をするんだ。日がまだ昇ってもいないのに日向ぼっこなんか出来るわけないだろうが!」
僕がいくら強い口調で責めても、鋭い視線を送っても、彼女の表情が崩れることはない。いつもどおり、彼女は笑うのだ。
「なんで、笑っているんだよ! 何が面白いんだよ!」
僕は目の前にある柵を勢いよく叩く。
「笑っている方がみんな元気出るでしょうー? 私は悲しんでいたり、苦しんでいたりする人を見ると笑顔になって欲しいと思うのー」
そう言って、彼女はまた笑う。
その表情は人を笑顔にさせるというより、人を小馬鹿にして煽っているようにしか見えない。話の通じない人間にいくら訴えたところで無駄だと、肩を落とす。
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