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 夏休みまであと一週間とした雨上がりの早朝だった。  僕は一人、学校の屋上で佇んでいた。  もうそろそろ世が明けそうだと、ビルとビルの隙間からこぼれる朝日を見て、目を細める。太陽という存在は僕が望んでいなくとも、沈み、また昇る。そして、昨日は明日になり、今日がやってくる。その自然の摂理に、おそらく、僕だけが追いついていない。  僕は昨日というものに縋りたくて、明日を向かい入れることを拒み続けている。けれども、周囲はそんなこと許してくれない。今日がやってきたのだから、受け入れなさいという圧力が僕を支配するのだ。だから、僕は仕方がなく重い体を無理やりに起こし、学校へと向かう。  多分、僕がこんなにも思いつめているなんて誰も知らないだろう。いや、知っているはずがないのだ。  だって、僕にはこんなつまらない悩みを相談する友達なんて――一人もいないのだから。もちろん、家族にもこんな話は絶対しない。  手塩にかけた一人息子が明日に向かいたくないなんて、馬鹿馬鹿しいこと聞きたくないだろうし、せめて家族の前だけは立派でいたかった。  だから、いつも僕は心配されないよう楽しかったとか、こんなこと頑張ったとか、クラスのみんなが褒めてくれたとか、当たり障りのない内容ばかりを口にする。そうすれば、母親は大抵、よかったねと返してくる。それだけでもう十分なのだ。  しかし、残念ながらそんな日常さえも奪われてしまい、もうどこにも僕が描く僕自身などいなくなってしまった。  もう、終わりだと真っ暗な部屋のベットの上で告げ、今に至る。  鼻から湿気混じりの空気を吸って、体の中に取り込む。けれど、それは僕の中で拒否反応をすぐに起こし、口から吐き出される。    僕はこれを綺麗アレルギーと呼んでいる。それは一般的に知られているアレルギーとかと同じもので、見たり、感じたりするだけで体が拒否反応を起こしてしまうというものだ。    そうならないためにも、僕は常に真っ黒なものに染まり、真っ黒なものに目を向ける。これは運が良いというかなんというか、学校という場所に行けば嫌でもそういうものを目にして、嫌でもその標的なる。
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