33、過ぎし日の幻影。(英輔)

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「いやー、あの子いまどき珍しいくらい素直だよねえ」 と中山先生が言うので同意した。 「そうですね。本当に正直な子ですよ」 俺に対しての態度がそう物語っている。 俺のことを嫌っている感じが痛いくらい伝わってきますよ。 「彼女、俺の教え方が悪いとはっきり言ってきたんですよ。結構効いて、参りました。中山先生がうらやましいです」 まだまだ未熟者だなあ、とかそういったことを笑いながら返されると思ったのに、彼は意外なことを口にした。 「そうかね? 割と生徒には評判だよ」 「え、そうですか?」 それは、単純にうれしい。 中山先生は少し考えてから感慨深そうに言葉を発した。 「ふうん、上山がそんなことを言ったのか。彼女は割と人を褒めるタイプなのに、君には厳しいんだなあ。それだけ数学への情熱があるということかな?」 彼は声に出して笑い、「まあ頑張れ」と言って立ち去った。 残された俺はしばらく思慮したあと、これではいけないと思い立った。 授業の進め方を見直さなければ。 上山に舐められてたまるか。
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