33、過ぎし日の幻影。(英輔)

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何か嫌われるようなことをしたかな、とあれこれ思いめぐらせてはみるが、一向に心当たりがない。 となればやはり、俺の授業に不満があるとしか思えない。 他教科の成績は芳しくないが数学だけ飛び抜けているから、そんな彼女が教える側への批判をするなら俺にだけだというのもうなずける。 むしろ私が教えましょうか、とでも言いそうな気がして恐ろしい。 上山は非常に真面目な性格なので、中途半端が許せないのだろう。 しかし、それなら赤点の他教科をもっと勉強しろと言ってやりたい、いや今度の面談で言ってやろう。 受験生なのだから、もっとやるべきことがあるはずだと。 彼女の模試の成績は数学以外がもはや取り返しのつかないことになっている。 壁にかけられたカレンダーに目を向けて6月であることを確認する。 あと半年。 このままでは彼女は大学受験に間に合わない。
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