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「そろそろ、別れようと思ってるんです。」  半分ほど中身の残ったグラスを持ったまま、燈子さんは瞬きを数回してから一気に飲み干した。色白の細い首がごくっごくっと大きく音を立てる。 「毎度毎度、燈子さんにお世話になってるので申し訳ないんですけど、その……。」 「はいはい、もう聞き飽きたからそれ。どうせそうなると思ってたし。」  思ったより長続きしたかな、と豪快に笑い飛ばしながら差し出したグラスにビールを注ぐと、彼女はそれをまた一気飲みして声を漏らした。私も自分のグラスを口に運ぶ。甘酸っぱい香りが喉元を撫でていく。 「一応聞いておくけどさ、駿介の何が駄目だった?」 「駿介? ……ああ、彼ですか、ええと……。」  いつものように燈子さんは呆れた顔で聞いている。まあ、気がないながらも付き合っている相手の名前すらぱっと出て来ないのだから。呆れられるのも仕方ない、のだろう。尤も、自分はそれに慣れ過ぎてしまっているのだが。  彼……駿介については、いい人だなという印象しかなかった。私より半年後れて入社した彼は仕事熱心で、客受けも頗る良かった。素直すぎるがゆえ、重いのだ。 「特にない、です。」 「本当に? 何も? 悪いとこないのに続かない?」 「彼は悪くないです。悪いのは……。」  そうとだけ言って、またオレンジジュースを流し込む。言いかけた言葉ごと飲み干した。  悪いのは、人に興味を持てない私の方です。
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