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松の木なのだ。そりゃ松ぼっくりが落ちる事もあるだろう、と、僕は口が裂けても言わない。
佳奈さんは常人の倍以上繊細なのだ。そんな冷めたリアクションを取れば、最低2日は部屋から出てこなくなる。
「朝男さん」
「はい」
佳奈さんは興奮した様子で僕の両手を握ってきた。
「私は気づいてしまったのです。この地球という星には引力があるという事に」
「はい」
佳奈さんがじっと僕の事を見つめて、首を傾けている。
「そいつは凄い発見だ!」
僕はしまった、と思い、リアクションをやり直した。
佳奈さんがひどく不安げな様子でそわそわし始めたからだ。
佳奈さんがまるで少女のように笑う。
「でしょ、朝男さん。私も最初はまさか、と思ったんですけど、木から物が落ちるって事は地面に引っ張る力が働いている、という事で間違いないような気がして」
「目から鱗ですよ、佳奈さん」
「やだ、朝男さん。鱗はお魚。目には鱗なんて無いですよ」
僕は頭を大仰に掻きむしり、口を大きく開けて笑った。
「そうですね、鱗はお魚だ。目には鱗なんてついてないですね。いやぁ、敵わないなぁ、佳奈さんには」
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