53人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
繊細な木製の椅子にはめ込まれたタイル達が濡れて滑り始める。
俺の腰も動き出す。
こいつも揺れに揺れ、気がつけばカーテンを引いた窓から薄明かりが差し込んでいる。
何時間やってたんだ、俺ら。
果てた跡に残るのはいつもなら空虚感。また誠を掴み損ねたと、口にざらつく敗北感。
荒い息も落ち着いて、まだ手の中にある未だ正体不明のコイツを見れば。
ん~どっかで見た気が。いや見てる気が。
「やだな、まだわからないの?」
拗ねたような顔をしてテーブルに置かれたセルフレームの眼鏡を掛ける。
「あー……………マスター。か」
どおりでよく知ってるはずだよ、俺らのこと。
マスターって。
若かったんだ。推定年齢20。
いつもはガッチリ固めてる髪もすっかり下りちゃって、可愛さ大爆発。
目でっか。お肌つやつや。
「年下だったんだ」
「俺、35」
「マジ?見えん。俺の五つも上?」
「童顔なんだよ、だから眼鏡掛けてフケてみせてる」
むくれるとも一つ可愛い。
「決めた」
マスターの肩をがしと掴み、フレームにキスをする。
無機質なプラスチック。ひんやりとして固い。
「新しい恋に突き進むことにした。
俺と付き合ってくれ、マスター」
「………男同士の恋愛なんぞナマモノだぞ」
最初のコメントを投稿しよう!