レンズは無機質なので………ジンの場合

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繊細な木製の椅子にはめ込まれたタイル達が濡れて滑り始める。 俺の腰も動き出す。 こいつも揺れに揺れ、気がつけばカーテンを引いた窓から薄明かりが差し込んでいる。 何時間やってたんだ、俺ら。 果てた跡に残るのはいつもなら空虚感。また誠を掴み損ねたと、口にざらつく敗北感。 荒い息も落ち着いて、まだ手の中にある未だ正体不明のコイツを見れば。 ん~どっかで見た気が。いや見てる気が。 「やだな、まだわからないの?」 拗ねたような顔をしてテーブルに置かれたセルフレームの眼鏡を掛ける。 「あー……………マスター。か」 どおりでよく知ってるはずだよ、俺らのこと。 マスターって。 若かったんだ。推定年齢20。 いつもはガッチリ固めてる髪もすっかり下りちゃって、可愛さ大爆発。 目でっか。お肌つやつや。 「年下だったんだ」 「俺、35」 「マジ?見えん。俺の五つも上?」 「童顔なんだよ、だから眼鏡掛けてフケてみせてる」 むくれるとも一つ可愛い。 「決めた」 マスターの肩をがしと掴み、フレームにキスをする。 無機質なプラスチック。ひんやりとして固い。 「新しい恋に突き進むことにした。 俺と付き合ってくれ、マスター」 「………男同士の恋愛なんぞナマモノだぞ」
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