レンズは無機質なので………保の場合

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『原稿欲しかったら、ほら。ここに来て』 ねっとりとした声でベッドから作家先生が保を呼ぶ。 股広げてんじゃねえ、と毒づきたいが今は原稿が欲しい。 「もう出来てるんですか?」 口の端を引き上げながら確認する。 「勿論。私だって正月に仕事なんかしたくないもの。 明日からワイキキ」 バブリーの抜けきらねえババアが。 「アシスタントは帰したし、今日はお泊りOKよ」 誰が泊まるか。 「見られる方が燃える人かと思ってました」 時間が惜しい保は取り合えず下だけさっさと脱ぐ。 「あら、待ってたんじゃない、貴方も」 先生様が唇を舐める。 待ってんのはお前の方だろ。俺が待ってんのはお前じゃねえ原稿だ、さっさと寄越せ、こら。 腹の中の思いは綺麗に隠し、そのままベッドに上がって膝裏から足を持ち上げ、覚悟を決めた途端。 「ねえ、眼鏡取って」 「……何も見えなくなるんですがね」 「このままでも、十分燃えるけど鉄面皮よりは天使に抱かれる方が百倍燃える」 チッ。軽く舌打ちし、眼鏡をジャケットの内ポケットに納める。先生の手が頬に伸び、スルリと撫でていく。 「いつ見ても綺麗な顔。 ねえ、全部脱いで見せてよ、ダビデ像みたいな体が見たい」 お断りだ。 そのまま有無を言わさず突っ込み、突き上げ、先生様はいたくご満悦なされ、めでたく原稿をゲットしてきた。 (いい加減疲れるわ) 重いため息が出る。
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