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「あいつ、まだ生きてんのかよ」野田は絶望に打ちひしがれていた。武器になりそうな物は何もない。スノーモービルは遥か後方にある。 「もう終わりですね、私たち……」名取は諦めていたが、後悔はしていなかった。三宅を見捨てて逃げることなど出来る訳がないと思っていた。 「いまさら死んだふりしても遅いだろうね」野田は立ち尽くした。 「もう疲れました」名取は空を見上げながら無抵抗な状態になっていた。  永遠に続くのではないかと思えるほどの悪天候は嘘のように止まり、真っ青な空が広がっていた。どこからともなくヘリコプターの音が聞こえていた。  結局建物の中で息を潜めていた人だけが助かることになるのだろうと思い、名取は急にバカバカしくなっていた。  クマは二人の前で止まると雪に鼻を近づけてしきりに匂いを嗅いだ。そして前足で雪を掘り始めるのだった。  クマの背中を見て名取と野田は息を飲んだ。背中の皮膚と肉は吹き飛び、骨が丸見えになり、標本のように内蔵が見えていた。 「こいつは三宅君を探しているのか?」野田は呟いた。  クマは数十センチの深さの穴を掘ると、靴の脱げた三宅の足が露出するのだった。クマはその足を数回舐めると、牙を剥き出したが、そのまま動かなくなっていた。肋骨の隙間から見えていた巨大な心臓を名取は握りしめていた。  野田はクマの死を見届けると、雪を掘り返して三宅の救出に成功。胸に耳を当てると、心臓は動いていた。 おわり
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