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「世界中の雪を集めてきたみたいだ」三宅琢磨は窓の外を見ながら白い息を吐いた。
「どこかの地域が猛暑になってないとバランスが取れないよな」佐々木こうたは自分の手に熱い息を吹きかけた。
「このまま二階部分も雪で埋もれたらどうする? 逃げるか?」
「たとえ埋もれたとしても、外に出るのは得策じゃないだろ」
「あいつらに食われて終わりか……」
クマ牧場のヒグマ数十頭が逃げ出した可能性が高い。という噂がネットを介して広まっていた。降り積もる雪を利用してクマたちは足場を作り穴から飛び出したのではないか、そう予想されていた。
町長が反対を押し切って建設したクマ牧場だった。集客力は弱く、腹を空かせたクマたちは穴の底からいつも人間たちを睨みつけていた。
従業員の給料だけではなくクマの餌すら捻出できなくなり、町長は税金で補おうとしたが町民は反対した。最終的にはコンビニが売れ残った弁当をエサとして提供することで、なんとか細々と経営している有様だった。
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