日傘眼鏡

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何も考えたくなかった私は、自分の角にもたれかかり、何時もの様に音の中に自分自身を隠す。私より確実に2、3は年上であろう彼女は、何時もの様に、私の左横に立ち、軽く会釈をする。まだ混んではいないのに、横30CM辺り。 駅を幾つか過ぎる頃から電車は混みだし、彼女は私に顔を向けて、寄り添うよう様な形で立っている。電車が揺れるたびに、身体が少しあたり、その毎、シャンプーの香りを鼻先に感じる。  無言の時間が20分程続く。電車が揺れて体がぶつかる毎に、彼女は、私の顔を見上げて、「すみません。」と言うかのように、その口を動かす。そして、彼女の手が私の胸にあたる。 電車が、私の高校の在る駅に着くと、私達は、身体を入れ替える。私は電車を降り、彼女は私の角に小さく立ち、閉まるドアから、私を見ている。私も彼女を見る事が有ったと思う。 クラスメイトから、「さっさと誘ってしまえ」とからかわれたが、そんな事はした事が無いし、夢の中でもそんな事は起こらない。   そんな夢だ。 余談ではあるが、私は何度かその日傘眼鏡の彼女と、スタジオがある繁華街ですれ違った事がある。その時も、軽く目で挨拶をするだけで、その翌日も、何時もの様に、何の会話も無かった。 だが、確かに言える事は、彼女が軽く触れる手の感触、シャンプーの香り、電車の中から私を見詰る眼など、日傘眼鏡の記憶が、私の何所かに残っているとゆうことだ。
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