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二人の女が旭日の部屋の畳の上に立っていた。
一人は臙脂色のブーツを履いて、もう一人は先の尖った渋い金色のパンプスだ。
缶コーヒーを自販機に買いに行く、ほんの五分ほどだからと鍵をかけていなかったのも悪い。
だからって勝手に土足でずかずか上がりこんでいいという法はない。
「あの……どちらさんで……」
理屈の上では旭日が正しいはずだが、あっけにとられておびえたような声しか出せなかった。
「私?私はツキヤの彼女よ!」
と臙脂のブーツが叫んだ。
「あんた!一回寝たくらいで彼女面しないでくれる?!」
「私はトクベツなの!」
「頭おかしいんじゃない?いい?特別なのはあ・た・しよ!」
「うるさい!ストーカー」
「ストーカーはあんたでしょ!犯罪者はさっさと家に帰れ。このブス」
「ブスにブスって言われたくないわ!ブスブスブスブス」
「言ったわね!ドブスドブスドブスドブスドブス!」
女たちはつかみ合いの喧嘩を始めた。
「ちょ、ちょ、ちょっと落ち着いて!」
ツキヤ、ツキヤと名前が出るところを見ると、この珍客は本来隣に行くはずだったのではないだろうか。
「ツキヤだったら隣だよ!」
女たちに負けぬよう目一杯大きな声を張り上げると、女たちはきょとんとした顔をして同時に旭日を見た。
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