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女たちは廊下でツキヤと話し込んでいた。いや話しているのはほとんど女たちだけだ。ツキヤと呼ばれた男はぼんやりと女たちを見つめている。
ツキヤは旭日がイメージしていたのとはちょっと違った。どうせチャラっとしたワルい感じのチンピラだと思っていた。髪型や服装は確かに真面目そうだとは言えない。前髪を左右非対称の長さに垂らして、耳には金の細い鎖がしゃらっとぶら下がっている。
だがいわゆる「不良」と呼ばれる者たちにありがちな不貞腐れた虚勢がない。背もあるしそんなに貧弱な体型でもない。女たちが取り合うのもわかるような整った顔立ちだ。しかしどこか頼りなげで「男」と言い切るには少しためらいを感じるような少年っぽさが残っている。
女たちはツキヤにどちらを選ぶか詰め寄った。
旭日は「どちらか」ではすまないことを知っている。女達の名前すら知らないがちょっとだけ胸が痛んだ。
ツキヤは無表情に「同じ女とは寝ないって、言ったろ」と涼やかな落ち着いた声で言い放った。
女たちは絶句した。
ツキヤは何も無かったかのように自室に入っていった。
ドアがガチャンと閉まると臙脂の方がわぁーっと泣き始めた。
『なんちゅう奴だ……』
知らん顔していればよかった。ピンクの携帯を振り上げた腕が行き場を失って踊った。
「うるさいっ!」
金色が臙脂の足を、その尖った足先で蹴りつけた。
「なにすんのよ!」
「泣くな!」
そういう金色の方も顔が崩れている。洟が出てくるのか手の甲で鼻をこすると
「帰るよ」
と何故か敵であるはずの臙脂を促した。
臙脂は金色の顔をじっと見て、泣き止むと黙って後をついていった。
「おー……い……」
旭日の手には携帯が残された。
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