第1章

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店の中に足を踏み入れた。 閉店ギリギリの時間だったが、間に合ったようだ。 店内は夜の街を景気付ける照明が当てられており、暗さに慣れた私の目は痛い。 客どころかカウンターに店員すらおらず、店内を見渡してみても、そこにあるのは無数の眼鏡と鏡だけだった。 すみません、と大きめの声を上げると、奥の扉から制服を着た男が姿を現した。黒縁の眼鏡をかけた痩身の男だ。 「いらっしゃいませ」 「眼鏡が欲しいのだが」 早々に私が言うと、男の店員は口元に微笑を湛え、フレームサンプルの眼鏡が置かれている方へ手を上げた。 「お好きなフレームをお選び下さい」 覇気のない、しかし怠慢を感じない程度の穏やかな口調で、男は言う。 あれこれ選ぶのが面倒だったので、適当に銀色のメタルフレームを掴むと、カウンターに置いた。 「これで良い。今日中に受け取れるか?」 「視力検査を致しますので、こちらへ」 まるで人の話を聞いていない店員に苛立ちを覚えたが、注意しているいとまさえ面倒に感じ、言われた通り視力検査をする。 視力が多少基準に満たない程度で運転免許の更新も出来ないなど、何て面倒な世の中なのだろう。 おかげでこっちはいらぬ眼鏡の出費をこうむるのだ。 オーダーメイドのレンズについて店員からの質問に適当に頷き、在庫があったかそこらの理由でその場で眼鏡を受け取ると、店員の感謝の言葉もそこそこに店の出口へと急いだ。 「犯罪撲滅キャンペーンのご協力、感謝致します」 自動ドアが閉まる直前、背中にぶつけられたその言葉に私は思わず振り返ったが、自動ドアが閉まったその店に、先程の店員の姿はなかった。
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