第1章

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「はあ・・・」   運動場がよく見える窓際の後ろから二番目の席で僕はため息をついた。   この席は通称ラノポジ(ラノベの主人公がよく座っているポジション)と呼ばれ、たいがい物語の始まりはこの席でモノローグを謳っている所から始まる。そして美少女転校生がやってきて事件に巻き込まれ、その美少女と恋に落ちていく。  この席になってから、ずいぶん経つが誰も転校してこないし、何なら後ろの席には僕の唯一の友達である田辺君が座っている。 「ねえ昨日のアニメ見た?」  高校三年生にもなって、某アニメの下敷き使っている田辺君。高校三年生のくせして腹が出始めた中年のような体型の田辺君。おっとりとした話し方で、知らない人と話す時はいつもどもる。裸の大将の山下清のような男だ。しかし、彼には山下清のような何かに優れた才能もない。はっきり言ってただのデブのアニメ好きだ。世間的にはオタクと呼ばれるポジションにいる人間だ。彼は僕以外の友人はいないし、僕も彼以外の友人はいない。 「あっ見た見た。やっぱりニ期になるとどうしても一期のころの勢いがないよね」  かくいう僕もアニメ、漫画、ゲームが大好きなオタクだ。 彼とたいして変わらない人間だ。  僕たちはモブキャラだ。  モブキャラの意味だって?いいよ、教えてあげよう。まず手元にある漫画を開いて欲しい?なければコンビニまで行け。ジャンプでもVジャンプでもSQジャンプでもいい。そして何かの漫画の主要キャラクターの顔を見て欲しい。ル〇ィでもナル〇でもモン〇ンでもいい。その周りにいる名前もなく、その場限りのキャラクターがいるだろう?絵柄も違う群衆達だ。 「それがモブキャラ」  通称モブだ。  作者ではなくアシスタントが描いているキャラクターだ。それはその場を演出するだけのためのものだ。言わば木や建物と言った背景と同じだ。  僕も田辺君もそうだった。  必要とされたことがない。頼りにされたことがない。役に立つ事もない。クラスの中心の人達を際立たせるための存在だ。  青春を謳歌することもない存在だ。  でもそれでよかった。  波乱万丈の人生よりも、そんな風に何も起こらない人生が一番いいんだ。  夜も眠れないような悩み事を抱えたり、体重が落ちてしまうような恋をしてしまうことに何の意味がある?
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