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漫画やアニメを見ているとそんなことばかり起きている。それは空想の世界だからこそ楽しいのだ。実際の世界でそんなことばかり起きていたら辛いだけだ。
今のままでいい。何となくのほほんとした日常を送ることが幸せなんだ。
その後も僕と田辺君はクラスの一番後ろの席で、アニメの話をしていた。
「ちょっと来て」
授業と授業の間の中休みに一之瀬から、そんな風に声をかけれた。
一之瀬真琴
ショートカットの髪がよく似合い、猫のような目つきで人を睨む女子だ。
「えっ?」
僕は田辺君と某RPGの攻略本を読んでいた。攻略本にはゲームの中では描ききれない設定が書かれていたりして僕は大好きだった。
「耳が悪いの?ちょっと来てって言ってるでしょ?」
何だイキナリこの人は?いきなり失礼すぎないか?いくらモブキャラの僕と言えどさすがに怒るよ?
「ご、ごめん・・・・・・」
まあ、怒れるわけないんだけどね?自己否定の塊の僕に他人を怒れる勇気なんかあるはずがない。
「ちょっと来て」
一之瀬はそう言って僕の手を引っ張った。ヒヤリと冷たい手が僕の汗ばんだ気持ち悪い手を包む。
田辺君が某RPGの攻略本を両手で、持ってまぬけな顔をして僕と一之瀬を見ていた。
一之瀬は僕を屋上まで連れて行った。屋上には鍵がかかっていない。防犯上のことを考えるととてもよろしくないことだ。
「出来たの?」
「子供が?」
「殴るよ?」
「す、すいません・・・・・・」
「アホなこと言ってないで出来たのかどうか聞いてんのよ?」
「ま、まだ出来てない・・・・・・」
「はあ?アンタ約束の日は明日だよ?出来るの?」
「な、何とか・・・・・・」
「約束は破らないでよ?約束は守るから約束なんだよ?わかってる?」
「わ、わかってるよ・・・・・・」
一之瀬は僕を猫のような目で睨む。あどけない顔と大人びた顔を両方兼ね備えたそんな表情だ。
「まったく・・・・・・じゃあ明日の放課後またここに来て。私は待ってるから。少しの遅刻なら許してあげる」
一之瀬は言いたいことだけ言って、体重など存在しないかのような足取りで屋上から出て行った。
残ったのは5月の乾いた風と、なで肩の情けない男子高校生だけだった。
「さてっと・・・・・・」
僕は体重を感じさせすぎる足取りで屋上から出て行った。その姿は漫画などでよく見る足首に鉄球を付けた囚人のようだった。
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