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モテたい。
生まれいでて三十余年、我が生涯たっての願い、唯一の望みが、それである。
どうか、お願いします。
合わせた手を解き、キツく閉じた目を開けてご拝殿から降り、人混みの中へ。
向から来る晴れ着のうら若き女性に、どうしても目が行くが、凝視しないように無理やり俯く。
うらやましい。
今年は思い切って、有名神社まで足を運び、初詣。
しつこい位に願望を念じたが、1月3日ともなると期待も薄い。何しろこの人混み、神様のキャパも超えている事だろうに。
帰ってまたゴロゴロしよう。
外は苦手だ。
「ハア、こんな所来ても、意味なかったな」
「それは酷いですね」
ギクリと歩みを止めた。
僕の何気ない言葉に、気を悪くしたのなら神社の関係者かなんかだろうか。
振り返ると、お腹の突き出たスーツ姿に、アタッシュケース。下膨れの輪郭に細いたれ目のおじさんが、ニタりと口を曲げた。ひょうたんが笑ったみたいだ。
「貴方、信仰は打算的に考えちゃいけませんよ、特に欲望なんて、ねだられる方の身にもなってみなさいな」
ああ、確かにそんな一方的な願い、聞き苦しいだけですな。
納得はした。そして、さっさとこの場を去ろうと思った。
「スイマセンでした。以後気をつけます。じゃ失礼します」
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