第1章 藤川君

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お店の窓からは、終わりかけの桜並木がぼんやりと見えた。 よくよく目を凝らしてみると、 木々の枝々にピンク色の花びらが、微かにしがみついている。 頑張っている春を、ちょっとだけ応援したくなった。 中学に入学して以降、私の視力は下がる一方だった。 2年に進級してすぐの視力検査では、案の定、新しいメガネを作るようにと言われた。 お母さんは「今日はあなたの誕生日だから、ちょうど良かったじゃない」と、 プレゼントのつもりで、近くのメガネ屋に私を引っ張った。 「他で買い物をしているから、その間に決めておいてね」 長時間、鏡と格闘している私を見て、 母親はそう言って、お店を出て行った。 鏡を見ながらいつも思う。 メガネは家と同じ気がする。 土台が悪いと良い家も建たない。 だから美人が羨ましい。 土台がしっかりしてるから、きっとどんなメガネでも似合うのだろう。 そんなことを考えながら唸っていると、 「これなんかどう?」と突然声を掛けられた。
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