【40】どうか

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「これ洗ったら帰るね」 タイミングを見計らって立ち上がる。 私の手には、空のマグカップとチョコレートの包み紙。 「俺がやるんで、そのままにしておいて下さい」 「これくらい自分でやるって。隼人君のも洗うよ」 困ったような顔をしたから、中身が空なのを確認してから持ち上げた。そもそも看病に来たんだし、私がやって当然なわけで。 洗い物はすぐに終わって、玄関でコートとマフラーと手袋を身に付ける。 「体調悪くなったりしたらすぐに連絡して?」 「車まで一緒に行きます」 うん。隼人君も上着を持ってきていることには気が付いていた。 「今は大丈夫とはいえ、熱あったんだしダメ。気持ちだけ貰っとく」 「……あの、明日どうしても会えませんか?それか俺のバイト先まで食べに来てほしいです」 「ごめん。でも30日には必ず来るから。前の日に会社の忘年会があって、お昼過ぎになっちゃうかもしれないけど」 そんな顔しないでよ。困る。 「外に出る時は暖かい格好するんだよ?じゃあ、またね」 ドアを静かに閉めて、外廊下をいつもと同じペースで歩いた。階段も急がずゆっくりと。 良かった。隼人君が元気になって。 良かった。帰るまで何とか頑張れた。 空気は冷たくて、吐く息は白い。 営業しているお店が多くて明るかったけど、澄んだ夜空を見上げると星がいくつか見えた。 「明日、プラネタリウムでも行こうかな。あー、でも日帰り温泉とかで癒されたいかも」 美樹にお誘いのメッセージを入力している途中で、着信画面に切り替わる。そこに表示された隼人君の名前。 電話越しでも笑顔をつくる。 『もう車に着きました?』 「ううん、もう少し。どうしたの?」 『30日、食べたいものあります?ケーキは何がいいですかね?』 コインパーキングの何番に停めていたのか確認しに行った時、車内に置きっぱなしにしていた紙袋の存在を思い出した。クリスマスプレゼントとして買っていた物。 これを渡したら出かけるとき身に付けてくれるかな。体調が悪化するのを、少しでも防げるかもしれない。
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