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見慣れた教室に、見慣れた幼馴染がいる。二人で何時もの様に他愛の無い話をしているのだが、何処か落ち着かなく、身体がふわふわと浮いている…そんな不思議な感覚に彼──深瀬景冶──は此れが夢の中なのだと確信した。
「…そう言えば、聞いたか?成嶋のヤツ彼女出来たって」
「マジかー」
目の前の幼馴染に怪しまれてはならないと、有りもしないクラスメイトの恋愛話に相槌を打った瞬間、パチンとスイッチが切り替わる様に自分達の居た景色が一変した。…気付けば景冶の部屋で、何故か後頭部には柔らかい枕の感覚、更に目の前で彼を見下ろしている幼馴染──葉山司──の均整の取れた綺麗な顔が此方に近付いてくる。
「ちょ、待て…司!?」
「ん、もう無理───」
その瞳は何処か焦点が定まらず、上目蓋も落ちかけた幾分恍惚にも近い表情でハァ、と熱の込もった息を吐き出す司が今にも景冶に襲い掛かろうとしたその時。
「だぁぁ!ふっざけんな!俺はネコじゃねぇ!」
ガバッと起き上がった彼は、今まで自分を組み敷いていた司を逆に押し倒す。
「きょー、ゃ…?」
驚きの余りにパッチリと目を見開いて景冶を見上げる幼馴染。…恐らく明晰夢であるが故の手違いなのだろう。
「司が幾ら俺より身長が高くても、俺は受け身じゃねーっつの!」
その言葉に、夢の中の司は何かを悟った様子でゆっくりと目を閉じた。…が、其処で景冶がはたと気付く。
(これって司に誘われてるのか…?)
ほんのりと上気した頬、しっとりと濡れた艶やかな唇。長い睫毛は小刻みに震えており、彼が緊張している事が分かるのだが。
「景…冶……」
「────…ッ!!」
譫言の様に彼の名を呼ぶ司に対し、景冶の身体──主に一部分──に不具合が生じる。
(待てよ、俺。…何で司相手に勃ってんだ!?)
葛藤が彼の頭を駆け巡る。…が、何も知らない幼馴染は両腕を伸ばして景冶を引き寄せた。全くの不意を突かれた為か景冶の身体は司に沈み込み、一瞬ではあるが薄い胸板に顔を埋める体勢になる。
「早く──」
「これじゃ動けねーだろ…」
そうは言うものの、男相手にどう致せと。景冶が真っ当な言い訳を司に告げると、彼を縛り付けていた腕がほどかれる。これは確実に見えないフラグが立ってしまったのだろうと観念した、その時…。
「景冶ー?アンタ何時まで寝てるの!?司くん来てるわよ!?」
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