お供え物

1/3
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

お供え物

 町外れに小さな祠がある。  中には石仏が祀られていて、お供え物を捧げて祈るとかなりの御利益があるという話だ。  俺もたまにそばを通るけれど、祠の前には、食品を中心としたたくさんのお供え物が置かれていて、時には、熱心に祈りを捧げている人も見かける。  その祠の側で、以前、とんでもない光景を目にした。  若い女性が祠の側に、いかにも高価そうなネックレス置いていたのだ。  まさかあれがお供え物なのかと見ている俺に気づかず、女はすぐにその場を立ち去った。その直後、置かれたネックレスが跡形もなく消滅したのだ。  起こったことが判らず、俺は体が動くようになっても、ただ茫然とその場に立ち尽くしていた。  後で祠の周辺を見回したが、ルックレスはどこにもない。何か仕掛けがあって消えたとしても、その痕跡も見当たらない。  どうしてネックレスは消えたのか。その理由を知ったのは、それから半年くらい経ってからだ。  地元の新聞で見た、土地の名家の御曹司の結婚記事。その花嫁の顔は、間違いなく、あの日、祠の前に赤ん坊を置いて行った女だった。  あまりに不思議な現象すぎて忘れていたことが記憶に甦り、俺はそれとなくあの祠について調べた。  その結果判ったことは。  今まで知らなかったが、あの祠の御利益は、世間的に価値の高い物を捧げれば捧げる程高まるという噂があったのだ。  高価なネックレスを捧げたことで、女は玉の輿に乗れたのだろうか。  噂だけなら半信半疑だが、俺は実際、この目でネックレスが消えるのを目撃している。だから、対価に見合った御利益があるという話を素直に信じた。  とはいえ、試そうとは思わなかった。  小さな欲求は多々あれど、高価な品を捧げてまで叶えてほしい願いはない。むしろ、何かバカ高い物をお供えしたとして、それで本当に、思うようなご利益が得られるのかは半信半疑だ。  あの女は玉の輿に乗ったかもしれないが、名家の嫁なんて、いいことばかりじゃなさそうな印象だ。それを思うと、高い物をお供えようという気は沸かなくなる。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!