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ひとしきり常連客の話を聞き終えると、ちーちゃんは空いたグラスを片手に、カウンターに戻ってきた。
グラスをシンクに置き、
「そういえば、耕作にはここに来るって言ってあるの?」
と、ちーちゃんは私に問いかけた。
「メールは送っといたけど、見たかどうか分かんない」
私が答えると、ちーちゃんは軽く溜息をつく。
「あいつも仕事溜まってるんじゃないの?」
「溜まってるだろうね」
「もし今日、耕作が来たら俺から言うけど、来なかったら明唯が言っといてくれる?
明後日は丸1日仕事できないから、ある程度頑張っとけって」
一瞬、キョトンとした私をちーちゃんは見逃さなかった。
眉尻を少し下げ、唇の片端を、微かに吊り上げる。
わずかにしか顔に表れない、ちーちゃんの苦笑だ。
「やっぱり忘れてた」
確か、去年も同じようなことがあった。下手したら、その前の年もそうだったかもしれない。
「いや、ほんと、毎年申し訳ないとは思うんだけどね」
言い訳を探しながら、私は視線を泳がせる。
「去年も一昨年も言ったけど、スケジュール帳買いなよ。
仕事の締切のことしか覚えられないんだから」
明後日は、盆入りだ。
毎年、この日は、はるちゃんとちーちゃんは店を休みにする。
そして、耕作、私、はるちゃん、ちーちゃんの4人で連れ立って墓参りに行くのが、恒例行事になっている。
スケジュールを管理するのが苦手な私と耕作は、毎年、そのことをすっかり忘れ、はるちゃんやちーちゃんから注意を受ける。
これも恒例になっている。
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